今回は、”「符号化特定性原理(Encoding Specificity Principle)」を考慮したインストラクション ” について考えてみます。
「記憶」の量、質については、人によって当然差がありますし、基本的には「学習者」側の問題です。
「教える側」の人たちが「学習者の記憶」を促す方略といえば、具体的には、 ”環境提供 ”、 ”語呂合わせ ”や ”関連情報の提供 ”、 ”ゲーミフィケーション ”のようなモノ、抽象的には、”動機づけ ” や ”記憶術の紹介(?)” など様々あります。
「記憶」については、大昔からいくつもの理論や学説があり、これまでもいくつか記してきました。
何が正しくて、何が間違っている、、、ということが非常に不明瞭な問題です。
人間の「脳」の機能が完全に理解されることは永遠にないようにも思いますが、実験や研究を重ねて、統計的結果や、その傾向についてはある程度 ”正しい ” と定義されています。
今回は「符号化特定性原理(Encoding Specificity Principle)」を、ある程度 ” 正しい ” モノとして、どのようなインストラクションが考えられるか? についての話です。
(符号化特定性原理:Encoding Specificity Principle)
・思い出しやすさの原理
・ある情報が記憶されるとき、その情報とともにその情報が符号化された環境や状況も一緒に記憶されるという説。
・情報の記憶が形成される際に、その情報と関連する手がかりが一緒に符号化される。
・エンデル・トゥルヴィング(Endel Tulving)によって提唱された。
・情報を思い出す場合、その情報が符号化されたときの状況や手がかりが再現されると、記憶の検索が容易になる。
・学習や記憶のテクニック、例えば環境依存記憶や状態依存記憶など、さまざまな記憶の現象を理解するために重要。
(記憶の符号化:Encoding)
・情報を取り込んで記憶として保存する最初の段階。
・外部からの情報が脳内で理解しやすい形式に変換し、後で取り出せるように記憶として保存する機能。
・感覚情報(視覚、聴覚、触覚など)、意味的情報(概念や言葉の意味)などが含まれる。
・「憶える」過程のこと。
(符号化特定性原理を考慮した(?)インストラクション)
1. コンテキスト一致学習
・学習内容を学ぶ環境と、情報を後で使用する環境(テスト環境等)をできるだけ一致させるようにデザインする。
・教室環境の再現
>テストが行われる教室で授業を行う。
・同じ時間帯での学習
>同じ時間帯で学習とテストを実施する。
2. 手がかりの使用
・学習内容を思い出す際に役立つ手がかりを提供する。
・視覚的手がかり
>図やイラスト、マインドマップを使用して情報を視覚的に提示。
・キーワード法
>重要なキーワードやフレーズを強調し、それらを関連づけて覚えるよう指導。
3. 状態依存学習の活用
・学習時の身体的・心理的状態を意識させ、それを再現するようデザイン。
・リラクゼーションテクニック
>学習前にリラックスする方法を教え、テスト前にも同じ方法を使うように指導。
・一定のルーチン
>特定の飲み物(カフェインなど)を飲みながら学習し、テスト前にも同じ飲み物を摂取する。
4. 多様なコンテキストでの学習
・異なる環境や状況で同じ内容を学習することで、情報を多角的に符号化。
・場所を変える
>学校内の異なる教室や自宅など、様々な場所で同じ内容を学習。
・異なる形式での学習
>音声講義、ビデオ、グループディスカッションなど、多様な形式で同じ内容を学ぶ。
5. テストとフィードバック
・テストを行うことで、符号化された情報を繰り返し想起し、記憶を強化する。
・クイズや模擬試験
>定期的にクイズや模擬試験を実施し、学習内容を確認。
・フィードバックの提供
>テスト後に詳細なフィードバックを提供し、間違えた部分を再学習。
6. 意味的符号化の強化
・情報を深く処理し、意味的に理解するように指導。
・関連づけと応用
>学習内容を日常生活や他の学問分野と関連づける。
・ディスカッションと説明
>学習内容を他の人に説明させたり、ディスカッションを行うことで、深い理解を促す。
7. マルチモーダル学習
・異なる感覚チャネルを使って情報を符号化。
・視覚と聴覚の併用
>スライドプレゼンテーションと口頭説明を組み合わせる。
・実践的活動
>実験やフィールドワークなど、体験を通じて学ぶ機会を提供。
といった感じです。
中には矛盾した方略もありますが、
「何が誰の記憶に効果があるか?」
は、インストラクションの前にはわかりません。
しかも、「記憶」は時間によって確実に減衰していきますから、インストラクション直後の事後テストで確認してもあまり意味がありません。
ではどうするか?
これは非常に時間と手間のかかるデザインになります。
1.” 教える側が「符号化特定性原理」に沿っていると考えた方略 ” を実施
2.一定の期間を経た後、再度(もしくは何度も)テストで記憶を確認
3.各人に対する影響を確認する
それで、
・効果のあった学習者には同じ方略を取る
・効果のなかった学習者には違った方略を取る
しかありません。
一般の内容の学習、記憶であれば、通常ここまでやることは非常に効率が悪いので、必要がないでしょうが、
”これだけはどうしても記憶しないといけない内容 ”
の場合、例えば「命」にかかわる内容等の場合には、ここまでやる必要があると思います(看護師へのインストラクションでは、様々なシステマティックな方略が用いられ、それなりに効果を出しているように思います)。
いずれにしても、コンピュータのメモリやSSD、HDDと違って、「人の記憶」はいつの時代も曖昧で、面倒なものです(それ故、面白いとも言えますが)。