今回は、これまた心理学から教育に取り込まれた「概念学習(Concept Learning)」について考えてみます。
企業内教育では「概念学習(Concept Learning)」などという”曖昧な「学習」”は、コスパが悪くて”ムダ”という噂をたまに耳にします。
本当にそうでしょうか?
勿論、「概念学習(Concept Learning)」だけではどうにもなりませんが、なんとなく、「ロジカルシンキング」なんかよりも、もっと現代に必須の能力習得ツールの一つではないかと思うのです。
(概念学習)
特定のカテゴリやクラスに属する事例を識別するための一般的な原則やルールを学ぶプロセスであり、特定の概念を理解し、その概念に基づいて新しい事例を分類する能力を習得する。
「共通の特性や属性を共有するアイテムやイベントの集合を識別し、それらを一つのカテゴリーまたはクラスとして認識する能力」
と定義したそうです。
概念学習のステップは、
・事例の提示
学習者に特定の概念に関連する事例や反事例(その概念に属さない事例)を提示。
・パターンの識別
提示された事例からパターンや関連性を見つけ出し、その概念の特性を理解しようとする。
・概念の定義
識別したパターンを基に概念の定義を作成。定義はその概念を表すルールやガイドラインとなる。
・新しい事例の分類
作成した定義を使って新しい事例をその概念に適合するかどうか判断する。
概念学習は、新しい知識を理解し、それを適用する能力を養う上で重要です。
これは、現代の「課題中心」「問題解決」の教育において、非常に強力なツールとなるように思います。
しかし、一部の「幼児教育」くらいでしかこのようなことをやっていないのが現実ですね?
メリットとデメリットは、
(メリット)
・深い理解
単に情報を記憶するだけでなく、その背後にあるルールや原則を理解することを目指す。これにより、学習者は業務の背後にある原則を理解し、その知識を他の状況に適応させる能力を獲得できる。
・問題解決能力の向上
問題解決スキルを強化。学習者は、概念の背後にある原則を理解することで、新しい問題や状況に対処するための戦略を考え出すことができる。
・長期的な学習
概念を理解するという学習方法は、単に情報を暗記するよりも長期的な学習効果がある。概念の理解は、新しい情報や状況に対して適応する能力を提供する。
(デメリット)
・時間とエネルギーを必要とする
単に情報を受け入れるのではなく、それを理解し、分析するプロセスを必要とするため、時間とエネルギーを必要とし、一部の学習者にとっては困難なことがある。
・適切な教材と指導が必要
効果的に行うためには、適切な教材と指導が必要。概念を正しく理解し、それを適切に適用するためのガイダンスが不十分だと、混乱や誤解を招く可能性がある。
・個々の学習スタイルの違い
すべての学習者が概念学習に適しているわけではない。一部の人々は、より具体的な学習方法や直接的な指導を好む。
ということです。
例えば、1つのインストラクションや問題解決を、どのような「概念」として、カテゴライズするかということは、とても大切なことですね?
インストラクションであれば、その分野や分類が何で、その後、何に役立つか? というカテゴライズができれば、メタ認知的な学習ができますし、前提とゴールを想起することも容易になります。
問題解決だと、どのようなフレームを使い、不足している部分や余剰なステップを省くといったことも可能となるかもしれません。
インストラクショナルデザインにおいても、常に「学習目標」とその「学習成果の分類」からまずは始まりますね?
以前、東京で e-Learning の講演をした際に、”カテゴライズできない人”からの質問を受けたことがあります。
ガニェの5つの学習成果を説明して、質問を募ったのですが、1人の男性が手を挙げて、
「例えば、室内の温度が上がりすぎていた場合、”窓を開ける”、”エアコンのスイッチを切る”、というのは ”運動技能” ですね? そういうことを訓練する必要があるのでしょうか・・・・」
頭を抱えました、、、、、熊大作成の分類表を提示し、例も出して説明したのに、、、、(まぁ、殆どの人はそんなもんですが、、)
仕方がないので説明しました。
「いや、”窓を開ける”ことや”エアコンのスイッチを切る”という行為自体ができないのであれば、それは、、、もしかしたら ”運動機能” かもしれないですね?」
「しかし、部屋の温度を下げるためには、窓を開け、エアコンのスイッチを切る、という知識、判断ができることの要素が強いと思いますので、その場合の分類は ”言語情報” と、どれくらい窓を開ければいいのかという ”知的技能” のように思います・・・・」
それ以上は何を言ってもムダだと思ったので、それで切りました、、・
正しくカテゴライズするというのは、
全体を見て、かつ、細部を見るという、
例のピーター・センゲの「木を見て、森も見る」
ことができなければ、上記の人のようになってしまいます。
企業内教育にとって、「概念学習(Concept Learning)」はムダなことなどなく、 ”必須 ” だと思います。
しかし、デメリットで挙げたように、時間もお金もかかってしまい、すぐにはその効果を出せないところが最大の問題です。
しかし、超優秀な管理職(?)や経営者向けに、「DXとは何か?」なんてことを学ばせるより、「概念学習(Concept Learning)」の方が会社の為になるように感じますし、
コンサルタントのような職種にとっては、「フェルミ推定」がどうのこうのより、「概念」を理解して、カテゴライズする能力がよほど大事なのではないか?
と思ったりします。
パターンや関連性を見つけ出す、というのは、簡単なようで、結構難しいことだと思います。
それには前提となる知識や経験、違う角度からのモノの見方などが必要となるので、一長一短に習得できることではないですが、、、