多くのインストラクションが失敗する大きな原因の一つが、学習者の「前提知識」の欠如や誤解によるものです。
今回は、「前提知識」を確認しないインストラクションばかりの企業内教育、について考えてみます。
通常のインストラクションでは、
1.診断テスト
2.前提テスト
を「事前」に行い、インストラクションの対象者を明らかにします。
1.で全くの対象外の人を外し、2.で前提知識・スキルを持っているかどうかを確認し、それが無い人には、
3.前提知識・スキル習得のインストラクション
4.前提知識・スキル習得の確認(再度の前提テスト)
その上で、
5.事前テスト
で、当該インストラクションが不要である人(既に知識・スキルを持った人)を除き、残った人を対象者とします。
という1~5を行って、”真の対象者” に向けてインストラクションを提供します。
が、しかし、
恐らく、企業内教育で提供される研修や教育の99%は、そのようなフローを飛ばしています。
それゆえ、どんなに素晴らしい(?)インストラクション(そんなものがあればの話ですが)であっても、ごく一部の人にしか効果がありません。
インストラクショナルデザインの研修や講演、レクチャーを受けても、最初は取り組んだりする人もいますが、すぐにやらなくなります。
なぜでしょう?
理由は2つ、
1つは、「面倒だから」
と、
もう1つは、「前提知識が無いから」
です。
後悔しながら、「面倒だから、、、」と言っている人はまだ少しはマシですが、ほとんどが「前提知識」が無いために、
「なぜそんなことをやる必要があるのか?」
が理解できないのです。
「熊大のインストラクショナルデザインの公開講座」では、インストラクショナルデザインの基礎的な前提知識を問い、習得することが必要なデザインがなされていますが、もっとも大事なこの ”概念” が欠落しているように思います。
「メリルのID第一原理」や「ガニェの9教授事象」「学習成果の5分類」「ブルームのタキソノミー」などの内容を学ぶ前に、
”「前提知識」を確認しないインストラクションは無意味である!”
ということを、学ばせないとダメだと思うのです。
この”概念”が無くては、鈴木先生やサルマン・カーンや公文式がどれだけ頑張っても、永遠に現状を変えることはできないでしょう。
勿論、それは民間の高額な研修業者も同じです。
フレームワークや、様々なモデルのインストラクションは行いますが、大前提であるこの ”概念” を飛ばしてしまいます。
そこでいきなり「4C/IDモデルは前提知識は不要、、、」などとインプットされてしまうので、通常の e-Learning や社内研修でも同じことをやり、結局は「教育・学習」が理解できないのです。
学校の教師も、企業の教育担当者も、教育関連の研修・コンサル業者も、まずは、「前提知識」の重要性を一度考えてほしいと思うのです。
・理解の困難
新しい知識やスキルは、既存の知識に基づいて構築される。前提知識が不足している場合、新しい情報を理解するための基盤がなく、学習が困難になる。
・学習の進行の遅延
前提知識がないと、学習者は新しい情報を吸収し、それを既存の知識と結びつけるのに時間がかかる。学習の進行を遅らせ、教育の効果・効率を低下させる。
・モチベーションの低下
前提知識がないと、学習者は自分が何を学んでいるのか、なぜそれが重要なのかを理解するのが難しい。学習へのモチベーションを低下させ、学習の質を落とす。
・誤解の可能性
前提知識が誤っている場合、それが新しい学習に影響を与え、誤解や混乱を引き起こす。
・アセスメントの失敗
教師や教育担当者が学習者の前提知識を適切に評価できない場合、学習者が必要な知識やスキルを身につけているかどうかを正確に判断することができない。
のです。
「足し算」「引き算」の概念、前提知識が無い生徒に、
「1+2=?」
「5-3=?」
が回答できるでしょうか?
それと同じことが企業内教育の場で永遠と行われています。
まぁ、私のブログやこういった投稿も、ごく限られたこの ”概念” を持っている人に向けて行っている、、、ようなものだということは理解しています。
ただ、何度も記しますが、学校教育は受験構造がある以上変えていくのは難しいですが、企業内教育は変えられると信じているので、事あるごとにこういったことを”伝道(?)”していこうと思っています。