21世紀に入った頃、ビジネスの世界で「ティッピングポイント(Tipping Point)」という考えがトレンドになりました。
「ティッピングポイント(Tipping Point)」は、マルコム・グラドウェルの世界的ベストセラーのおかげで知っている人も多いですし、様々な分野で今でもたまに語られることがありますね?
「教育・学習」の世界では、塾講師や、研修講師、企業の教育担当などが、学習者に発破をかけたり、モチベーションを維持させようと引用したりします。
また、前に記した「探究学習」のコンテキストでもよく語られます。
ということで、今日は「学習におけるティッピングポイント」について記したいと思います。
(ティッピングポイント(Tipping Point))
・ある事象が一定の限界点(閾値)を超えると急激にその状況が変化する点を指す概念。
・物理学における相転移(水が沸騰する温度など)や、感染症の大流行、社会現象の拡大など、様々な現象に対して使われる。
・一般的には、マルコム・グラドウェルのベストセラー「ティッピング・ポイント」で広く知られるようになった。グラドウェルは、ファッション、ウイルス感染、新製品の流行など、様々な現象が一定の「引き金」により急激に広がる過程を「ティッピングポイント」と名付け、これを理解することで社会現象を予測し、コントロールする可能性を示した。
・ビジネスやマーケティングの分野でも用いられ、新製品の販売においては、ある一定数の消費者がその製品を購入した時点で、その製品が大衆に広まり始めるとされる。その一定数の消費者を獲得することが、事業成功のティッピングポイントとなると言える。
ということですね。
「学習におけるティッピングポイント」は、
学習者が新たなスキルや知識、理解を得るための決定的な瞬間や経験を指します。
(新たな視点の獲得)
あるトピックについて深く学んでいく中で、突如として新たな理解や視点が得られる瞬間があり、これは「洞察」や「エウレカの瞬間」とも呼ばれ、学習者の理解が大きく深まるティッピングポイントとなる。
(言語学習の進展)
新しい言語を学ぶ際、最初のうちは進歩が遅く感じられることが多いが、ある一定の語彙数や文法ルールを覚えた点で、突然にその人の言語能力が飛躍的に向上することがある。これは言語学習におけるティッピングポイントとなる。
(実践経験の積み重ね)
理論的な知識だけでなく、実際にスキルを使って何かを行う経験が積み重なると、そのスキルの習熟度が大きく上がることがある。「実践による学習」もまた、ティッピングポイントとなる。
どうです? この内容で「んん?」と思うでしょう?
つまり、突然
「昨日までの自分と、今日の自分は全くの別人」になれ!
というようなことを示唆するわけです。
「ティッピングポイント」という考え方は、間違ってはいないと思います。
しかし、普通に考えると「ティッピングポイント」は ”結果から考えて” わかるといったモノであり、経済学者が「経済」を語るようなことだと思うのです。
もしくは、「考古学」のようなものですね、、、?
(もちろん、経済学も、考古学も重要です!)
”経済学者の将来予想は、99.9% 当たりません”
よね?
これと同じことを、最近の「探究学習」ブーム(?)に乗って「教える側」が「ティッピングポイント」などと語るのは、どうも理解できないのです。
「ティッピングポイント」には、下記のような要素もあります。
(予測困難性)
ティッピングポイントを特定し、それがいつ訪れるのかを正確に予測することは非常に困難。また、ティッピングポイントが訪れたかどうかを確認するのは、しばしば事後の視点からしかできない。
(個別性)
ティッピングポイントは、特定の状況や事象に対してのみ適用可能であり、一般的なルールを立てるのは難しい。同じ状況でも、ティッピングポイントは異なる場合がある。
(シンプル化過剰)
ティッピングポイントの理論は、複雑な社会現象を単一の要因に還元してしまう傾向がある。これは、現象の多様性や複雑さを無視する結果となり得る。
(自己成就的予言)
ティッピングポイントが予測されると、その予測自体が現象を引き起こす可能性がある。これは自己成就的予言と呼ばれ、予測が事実を形成するという矛盾を生み出す。
「ティッピングポイント」がわかっているなら、それほど楽なことはありませんよね?
「インサイダー取引」みたいに、、、、
でも、
「学習者が大きく進化する時はあるでしょ?」
「それをティッピングポイントとは言わないのか?」
と言われれば、確かに、個人個人に「ティッピングポイント」はあるでしょうね、、、、?
しかし、後になってからしかわからないモノだけを追いかけても仕方がありません。
学習者が大きく進化したりするには、前後関係、環境、状況、前提知識、意識、繰り返し、、、、といった多くの要素が絡み合っています。
よって、最終的な結果(ゴール)を見ながらも、一つ一つのハードル(学習目標)をクリアしていく必要があるのです。
そして、常にレバレッジ(leverage)を意識しながら、学習を着実に進めることが将来的な「ティッピングポイント」を見つけることになるんだと考えます。
「ゆっくり急げ(Festina lente)!」
ということです。