louribot’s blog

学習成果の出る企業内教育(教育全体)についての考察を語ります

「望ましい困難(desirable difficulties)」への少しの疑問 ~ もっともな話なのだが ~

”「望ましい困難(desirable difficulties)」への少しの疑問 ”


というテーマで考えてみます。


「望ましい困難(desirable difficulties)」は心理学者である Robert A. Bjork などが提唱したもので、


・「脳に適度な負荷をかけて学ぶことにより、長期的には学習効果が高まる」現象のこと。


・チャレンジングな課題や問題解決など、思考を刺激し、知識やスキルをより深く理解するためには、一定の困難さが必要であるという考え方。


です。


このことは、教育・学習の世界では、ほぼ ” 神話 ” のように扱われています。


しかし、最近の「課題中心型のインストラクション:TCI(Task -Centered Instruction)」などでは、” 認知負荷 ” を減らすというベクトルの違った方略を使ったモデルも多いですし、

 

概念的な話ですが、


まず、”困難”に”望ましい”ことなどあるでしょうか?

また、”適度な負荷”の”適度”とはどのくらい、、、でしょうか?

 

という疑問があります。


学習ではなく、これが人生だとしたら、、、

人生には「望ましい困難」など必要ではないと思っています。

苦労などせずに、好きなように楽に生きていければ、それに越したことはないでしょう(まぁ、誰もそんな風に生きることはできないとは思いますが、、)?


Bjork は「学習」と「記憶」の関連について1つの考えとして「望ましい困難」を提唱したのだと思いますが、どれくらいのn数で実験したのでしょうね?


一般的に、


・学んだことを自分で自分に説明したり、練習問題を行うといった、脳に適度な負担がかかる方法のほうが効果的。

・一度学習して、忘れかけた頃にテストをする。

・時間をかけて一度に学習するのではなく、時間をおいて学習する。

・テストを使って想起練習(思い出す練習)をする。

・実際の状況を模したさまざまな状況で練習する。

・重要な概念を自分の言葉で言ったり、コンテンツの一部を自分で修正したり作ったりする。


といった学習方法が「望ましい困難」にあたり、学習内容の長期的な記憶を作りやすくする、、、といったものです。


まさにインストラクショナルデザインでも”王道 ”であり”正攻法 ”だと思います。

望ましい困難

しかし、これが ” すべて ” 、、、として、常にこの方略を取りがちですが、同じインストラクションでも、一定数の人には、この”王道”が通用しないことがありますね?


1.単純なことの繰り返しで学習をしていく人

2.テキストを読むだけで学習できる人


の人は、普段あまり学習しない人や、学習するモチベーションを持てない人に多く、

2の場合は、、、ほとんど天才です(?)


100人の学習者がいたとしたら、多分、2,3割(?)はこのような人がいますね(適当ですが)。


何度も記しますが、学習者は一人一人違います。それを「望ましい困難がいい」とか、「認知負荷を減らす方がいい」とか総括的に語っても意味がないのではないか?


などと言ってしまえば、どんな理論も成り立ちませんね?

それはわかっているのですが何となく、、、? と思ったりもします。


恐らく理論や考え方としてはほとんど間違っていないので、特にこのことを否定するということはありませんが、その適用対象、適用方法に少しだけ”疑問”があるということです。


とはいえ、これは結構な”永遠の課題”かもしれません。


理論もモデルも方略も、完全に正しいことはなく、あらゆる場面、すべての人に当てはまることはない、、


という身も蓋もない事実があります。


勿論、”効率”を考えると”ベスト”ではなく”ベター”な方を取りますし、それは仕方がないことだと思います。


しかし、折角「教育・学習」のことを学んで実践できる機会があるのであれば、限りなく”ベスト”を目指すべきだと思うのです。


・「望ましい困難」で効果がでる学習者にはその方略を、

・「認知負荷を減らす」ことで効果がでる学習者にはその方略を、


というような「教育」は考えられないでしょうかね?


例えPSI(個別化教授システム(Personalized System of Instruction))が実行不可能だとしても、そこに近いモデルは考えられないでしょうか?


また、内容によっては、

・「深い理解」が必要ではない場合

・「深い理解」が無いと次の学習に行けない場合

もあります。


今回のテーマに関しては、

やはり、最初はある程度の「望ましい困難」を与え、形成的評価を行い、


・通常のIDの方略で対応するグループと、

・TCI的な方略で対応するグループに

 

分ける、、、、

 

というようなことが考えられないでしょうか?


つまり、「ベーシックコース」「アドバンスドコース」をインストラクションの途中で用意し、分岐するという方略です。


コトバ的には「ベーシックコース」の方が簡単な感じですが、そうではなくて、

・「ベーシックコース」には「望ましい困難」

・「アドバンスドコース」にはTCI的アプローチで、JIT(just in time)のサポートを行う

 

というインストラクション、研修はどうでしょう?

 

そんな研修があったら、受けてみたいな、、などと考えました。