今回は、”「損失回避」と「教育」 ” ということについて少し考えてみます。
「損失回避」といえば、まず思い出されるのが、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの「プロスペクト理論(Prospect Theory)」ですね。
(プロスペクト理論(Prospect Theory))
不確実性下における意思決定モデル。
選択の結果得られる利益もしくは被る損害および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか記述するモデル。
心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された行動経済学の理論。
人がリスクを伴う意思決定を行う際の行動を調査し、人間の判断は絶対的な富ではなく、利益と損失の観点から評価され、特に損失に対して過剰に反応するという結果を導き出した。
人は同じ価値の利益よりも損失を避けることを優先するという特性を指す。
(プロスペクト理論における3概念)
・損失回避性
利益を求めるより損失を避ける心理的な傾向のこと。人は利益を得る喜びよりも損失から来る痛みの方を大きく感じる。
・参照点依存性
絶対的な判断に基づいて物事の価値を測るのではなく、参照点(別の物事の価値)との比較によって価値を測る心理的な傾向。
・感応度逓減性
利益や損失の絶対値が大きくなるにつれて、損得の感応度が減少する心理的な傾向。
ビジネスの世界で言えば、マーケティングとかファイナンスなどの分野でよく使われますね?
このことは、「教育」においても無関係ではないと考えます。
日本の教師、講師、教育担当者などが「教育・学習」を学び、例えばインストラクショナルデザインに基づいた「教育デザイン」を作り、「効果的、効率的な教育」を実施したい、、、というような場合、多くの人は、まず「損失回避」が頭を過ります。
・「ご講演座学」など学習効果はほとんどない
・「教育」は「学習者」の支援
・「前提知識」の無い学習者をインストラクションに参加させてもムダ
・「教えない教育」
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といったことを知っている人は、案外多いのではないか? と思います。
しかし、現実として、インストラクショナルデザインは衰退し、ICTを使えば「素晴らしい教育」などという意味不明のブームが起き、、、
学校や企業内教育の現場では、何十年も同じような ” 賢者 ” が ” 壇上 ” に立っています。
・新しいコトをやって成果がでなかったら・・・
・これまでどおりの教育をやっていれば責任は問われない
・とにかく無難に・・
・失敗したら降格、減給になるかも?
などという心理が働き、自分自身の「損失回避」を行うわけです。
インストラクショナルデザインで「教育デザイン」をして、これまでの「教育」と全く違った方略を取った時、
・「成功(成果が出る)」すれば「昇進・昇給」
・「失敗(成果が出ない)」すれば「降格・減給」
・ 何もしなければ「現状維持」
ということもあります。
そこで「プロスペクト理論」どうりに、「何もしない」と決定されます。
このことは、今後の教師、会社員生活が長く続く若い人に顕著に表れてきます。
心理として、このことは多くの人が共感できることだと思います。
それゆえ、「太古の教育(らしきもの)」は今も存続し、「学校教育」「企業内教育」は全くの無意味な存在となっているわけです。
しかしながら、実はこれは ” 現実 ” ではありますが、” 間違っている ” のです。
間違っているというより、学習不足、知識不足、と言ったほうがいいかもしれませんね?
インストラクショナルデザイン、教育・学習理論、教育デザインということをちゃんと普通に学んでいれば、
「成果が出ないということがありえない」
ということはわかります。
教育デザインは、「成果」「評価」もデザインします。通常は、ゴール(成果)から逆算してデザインを作っていくのですから、
結果は最初からわかっています。
「形成的評価」を順次行い、デザイン修正をして、必ず「成果」が出るという仕組みなのです。
これを「インストラクショナルデザインは面白くない」、「インストラクショナルデザインの限界」、、、とかいう論理的ではなく、やたら創造性やイノヴェーションなどを唱える人たちもいますが、、、、、
という、「損失回避」と「教育」のお話でした。
最近は、起業、スタートアップなどのブームもあり、若い人たちの心理も徐々に「プロスペクト理論」に従わない傾向もあるようですから、今後の「教育」に少しは期待が持てるような気もするのですが、如何せん、「インストラクショナルデザイン」や「教育・学習理論」を学べるところが無くなってしまったというのは、、、、辛いものがあります。