今回は、「自己概念を覆すということ ~ 教育・学習界隈について ~」 というテーマで少しだけ考えてみます。

「自己概念(self-concept)」とは、誰もがもっている自分自身のイメージ。 得手不得手の認識、他人からどのように見られているのかなど、自分で自分を位置づける思考のことですね。
個人が自分自身について持っている認識や信念、感情の総体であり、個人のアイデンティティや自尊心に大きく関連し、教育や学習においても重要な役割を果たします。
「自己概念」はつまるところ、自分という個人の ” 限界もしくは可能性 ” を決めつけることです。
「数学は苦手」
「文系人間だから・・・」
「自分の頭では理解できない」
と、” 限界 ” を定め、
「営業が天職!」
「最終的に係長くらいになれればいいや・・」
「彼より私の方が頭がいい」
「大谷サンのようにホームランは打てない」
と、 ” 可能性 ” を定めます。
そして、「ポテンシャル(Potential)」などというコトバを安易に使いだしたりします。
「自分がどんな人間であるか?」
というようなことは、至極曖昧にはイメージできるでしょうが、
自分の ” 能力の限界や可能性 ” を決めつけることは、全く無意味で愚かなことだと誰もが思っているはずですが、99%の人間がそれをやってしまいます。
「自己概念(self-concept)」とか、「ライフスタイル(lifestyle)」といった考えに対して、「自分とか、ないから。 教養としての東洋哲学 / しんめいP」なんていう本がベストセラーになっているので(どうもピンとこないので読んでいませんが)、少しはいい状況なのかもしれませんね?
「学習」というのはある意味では、「自己概念」を覆す行動なのかもしれません。そして、その支援をするのが「教育」です。
ただ、「自己概念」は特に意識することなく各人が持ってしまうモノですから、” 覆す ” というよりは、” 進化 ” させるといった方が聞こえはいいのかもしれません。
これまでも、「思い込み」による「学習」の停滞や遅延、脱落について記してきましたが、それより少し広い範囲である「自己概念」についても多くの理論や意見、提唱があります。
(自己概念を覆す教育法)
心理学者キャロル・ドゥエック(Carol Dweck)が提唱した成長マインドセットは、知能や能力が努力と学習によって向上するという考え方。教育者がこの考え方を教え、生徒が自分の能力を固定的なものではなく、発展可能なものと捉えるようになると、自己概念が大きく変わる可能性がある。
・ポジティブフィードバックと称賛
適切なフィードバックは生徒の自己概念に大きな影響を与え、過去に否定的な評価を受けた生徒に対しては、ポジティブなフィードバックが重要。
・社会的・情動的学習(SEL: Social and Emotional Learning)
社会的・情動的学習は、生徒が自己認識、自己管理、対人関係スキル、意思決定スキルを発展させることを目的とし、生徒が自己認識を高め、肯定的な自己概念を持つ手助けをする。
・個別化学習(Personalized Learning)
個別化学習は、生徒一人ひとりのニーズ、興味、進捗に合わせた学習計画を提供するアプローチで、生徒は自分のペースで学び、自分の強みを最大限に活かすことができる。
・メンタリングとコーチング
メンタリングやコーチングは、生徒が自己概念を再評価し、肯定的な自己イメージを築くのに役立つ。信頼できるメンターやコーチが生徒の成長をサポートし、自己認識を深める手助けする。
・プロジェクトベースの学習(Project-Based Learning)
生徒が実際の問題を解決するプロジェクトに取り組むことで、自己効力感と自己概念を高めるアプローチ。実際の成果を通じて、自分の能力を確認する機会を提供。
・リフレクション(内省)の促進
生徒が自分の学習経験を振り返り、自己認識を深める活動を取り入れることで、自己概念を見直す機会を提供。
(自己概念と教育、学習の関係性)
・ 自己概念の形成と教育
>家庭環境
子供の自己概念は、主に家庭環境の中で最初に形成されます。親や兄弟からのフィードバックや期待が、子供の自分に対する見方に影響を与える。
>学校環境
教師やクラスメートとの関係も自己概念に影響を与える。教師の期待やフィードバック、クラスメートとの社会的相互作用は、子供が自分をどう見るかに影響する。
・自己概念と学業成績
>肯定的な自己概念
自分を有能で価値ある存在だと感じる子供は、学習に対する意欲が高く、困難に直面しても粘り強く取り組む傾向があり、学業成績の向上に寄与する。
>否定的な自己概念
自己概念が低い子供は、自分に対する信頼感が欠如しており、学業においても自己効力感が低くなりがち。困難に直面した際にすぐに諦めてしまうことが多く、結果として成績が低下する。
・教育の自己概念への影響
>教師の役割
教師は生徒の自己概念に直接的な影響を与えることができる。ポジティブなフィードバックや励まし、適切なチャレンジを提供することで、生徒の自己概念を向上させることができる。
>評価方法
試験や評価の方法も自己概念に影響を与える。過度に競争的な評価方法は、自己概念を傷つける可能性があり、逆に成長を重視した評価方法は、自己概念を高める効果がある。
・学習の自己概念への影響
>成功体験
学習における成功体験は、自己概念を強化する。新しいスキルを習得したり、難しい課題を克服したりすることで、自分に対する肯定的な認識が高まる。
>失敗体験
失敗も自己概念に影響を与えるが、その捉え方が重要。失敗を成長の機会として捉えることで、自己概念を損なわずに学習を続けることができる。
・自己概念を高める教育アプローチ
>成長志向のフィードバック
努力や過程を重視したフィードバックを行うことで、生徒は自分の成長を実感し、自己概念が向上。
>個別指導
個別のニーズや興味に応じた指導を行うことで、生徒は自分が大切にされていると感じ、自己概念が強化。
>協力学習
グループでの学習活動を通じて、他者との協力やコミュニケーションスキルを育成することができ、自己概念が向上。
というような感じです。
「教育」の側で、こういったことを考えるのは重要なことですし、今後も類似した方略や理論がいくつも生みだされていくことでしょう。
しかし、「学習者」「学習」の側で考えれば、
” 能力の限界や可能性 ” を決めつける「自己概念」などできるだけ意識させられない方がいい
に決まっています。
「学習」するメンタルの部分は大事ですが、「教育」という行為によってそれを敢えて表面化させ、意識を植え付けることについては懐疑的に感じられます。
「学習」は、「Just do it」
だと思うのです。