インストラクショナルデザインを学んだ人なら、「ADDIE」と「SAM」のプロセスモデルがあることは誰でも知っていますね?
また、特にインストラクショナルデザインを学ばなくても、教育関連の研修やセミナーを受講された人なら、「ADDIE」くらいは聞いたことがあるかもしれません。
ADDIEは、
・分析(Analysis)
・設計(Design)
・開発(Development)
・実施(Implementation)
・評価(Evaluation)
というステップで実施する、、、
というのが、まぁ、「インストラクショナルデザイン入門」ですね?
これは基本中の基本ですが、世間では「PDCA」の方が有名で、前にも記しましたが、「インストラクショナルデザイン」の説明の最初に必ず「ADDIE」を入れたことが原因で、「インストラクショナルデザイン」自体が普及しなかった、と個人的には考えています。
「PDCAと同じか・・・」
という具合です。
まぁ、それは今回は置いておいて、「SAMモデル(Successive Approximation Model)」の話です。
「SAM」といっても、「Segment Anything Model」や「Serverless Application Model」ではありません。
インストラクショナルデザインのプロセスモデルの1つである「Successive Approximation Model」です。
(SAMモデル)
・インストラクショナルデザイン(教育設計)のためのアプローチの一つで、反復的かつ反応的なプロセスを通じて設計と開発を行う方法。
・マイケル・アレンによって開発された。
・「SAM1」と「SAM2」の2つのバージョンがある。
<SAM1>
「準備フェーズ」、「反復設計フェーズ」、「反復開発フェーズ」の3フェーズからなり、各フェーズは、「設計」と「開発」が進行するにつれて繰り返される。
(準備フェーズ)
プロジェクトの情報を収集し、初期のプロジェクト計画を作成。
(反復設計フェーズ)
プロトタイプの設計と評価を行う。このフェーズでは、フィードバックを取り入れて改善を行う。
(反復開発フェーズ)
完成したデザインを基に実際のコンテンツを開発。このフェーズもフィードバックを取り入れながら改善を行う。
<SAM2>
大規模なプロジェクトに対応するためのモデルで、「SAM1」に追加のフェーズが含まれている。
(準備フェーズ)
SAM1と同じだが、情報の収集(gathering information)、「Savvy Start」と呼ばれるブレーンストーミングとプロトタイピングミーティングの開催。
(反復設計フェーズ)
SAM1と同じだが、このフェーズでは設計の検証も行う。
(設計の検証フェーズ)
全体的な設計が適切であることを確認。必要に応じて設計を修正。
(反復開発フェーズ)
SAM1と同じだが、このフェーズでは開発の検証も行う。
(開発の検証フェーズ)
開発されたコンテンツが適切であることを確認。必要に応じて開発を修正。
といった感じで、
”「SAM」と言えば「プロトタイプ」”
というくらい、実施の前にまず何度も「プロトタイプ」で検証するというモデルですね?
また、反復的なプロセスにより、早期にフィードバックを取り入れて改善を行うことができるということがウリです(?)。
「SAMモデル」のメリットとデメリットは下記のとおりです。
(メリット)
・反復的なデザイン
反復的なプロセスで、設計の各ステージでフィードバックと改善を行う。教育設計者は早い段階から問題を特定し、解決策を見つけることができる。
・柔軟性
フレキシブルであり、設計者はプロジェクトのニーズに応じて調整を行うことができる。
・効率
時間とリソースの効率的な使用を可能にする。初期のフィードバックにより、教育設計者は問題を早期に特定し、時間とリソースの浪費を防ぐことができる。
・高品質な製品
反復的なプロセスと早期のフィードバックにより、製品の品質は大幅に向上する。
(デメリット)
・スキル要件
効果的に使用するためには、教育設計者はフィードバックを受け入れ、それに基づいて改善を行う能力が必要。このようなスキルが不足している場合、SAMモデルはその効果を十分に発揮できない。
・プロジェクト管理
反復的なプロセスであるため、プロジェクトの進行状況を追跡し、管理するのが難しい場合がある。
・リソースの調整
各反復で新たなフィードバックと改善を行うため、リソースの調整とプロジェクトのスケジューリングが難しくなる場合がある。
・ステークホルダーとのコミュニケーション
反復的なプロセスであるため、ステークホルダーとのコミュニケーションと一貫性を維持するのが難しい場合がある。
また、アレンが強調しているのは
「ADDIEは遅いので、SAMだ!」
ということだと思います。
「SAMモデル」は、スピード早い、、、、ということを宣伝しますが、、なんとなくこれには疑問があるのです。
何年か前に、公開講座かセミナーか講演か、パーティかは忘れたのですが、まだ熊大の教授システム学研究センターのセンター長であった(悲しい)鈴木先生へのQ&Aで、
「企業ではADDIEは遅くて実施できないという評判を聞きますが、、」
という問いを誰かが投げかけ、それに対して鈴木先生の答えは、
「そういうときは「SAM」です」
の一言で終わってしまったことがあります。
(時間が限られていて仕方なかったとは思いますが、非常に残念でした)
そのことがずっと記憶に残っていて、、、、帰ってからすぐに「SAMモデル」について調べてみたことがありました。
「SAMモデル」でよく語られるのが、「アジャイルアプローチ」ということです。システム開発の世界では、従来の「ウォーターフォール」では遅いので「アジャイル」が必要、、、という時代でした(今もそうでしょうが)。
・「ADDIE」は「ウォーターフォール」
・「SAM」は「アジャイル」
だから、「SAM」なんだ、、、、、、ということですが、各セクションが”同時進行”するループサイクルのプロセスモデルとして「ADDIE」をとらえれば、この論理は成り立たないと思います。
実際に、「ADDIE」のプロセスを進行させていたとしても、各セクションは仮説や過去実績を考えて”同時進行”、「アジャイル」することもできるはずだと思います。
まぁ、「何も考えないことが一番いいこと」である日本企業の教育ですから、上から降りてくるまでは「待ち」ということがほとんどであることは否めないのですが、、、、
また、”「SAM」は「アジャイル」”ということについては、確かにそうかもしれませんが、それには、
・「インストラクショナルデザイン」
・「教育、業務内容」
をともに理解した人材、ポジションが必須です。
コンサルと、SMEだけで「SAM」を実施しようとすると
”100%失敗します”
これだけは断言できますね、、、
ということで、インストラクショナルデザインを専門で行う部署、人、会社全体の「教育」を統括するCLOさえいない日本企業では、、、、
「SAMモデル」など、10年早い、、、、
ということです。