今回は、”「教育工学」「学習科学」というコトバの影響 ” について少し考えてみます。
それぞれのコトバが意味する詳細な内容や定義については、アカデミアに任せることとして、こういったコトバがどのように現場の「教育・学習」に影響を与えているか?
ということについての、一般人としての考察です。

(教育工学:Educational Technology)
・教育と学習のプロセスを科学的に解析し、最適化するための手段や方法を開発、適用する学問分野。
・教育の情報化が進展する中で、ICT(情報通信技術)を活用した教育方法の開発や評価、学習効果の分析などが重要なテーマ。
・コンピュータやインターネットを使った教育プログラムの開発、学習者の理解度を深めるための教材作成、教育効果の検証や評価方法の開発などが主な研究内容。これらの研究を通じて、教育現場における問題解決や新たな教育方法の提案を行う。
・教育現場の改善に資する、教育効果の高いアーティファクトを設計・開発・評価する学問。
・授業・教育のシステム化によって教育目標を効果的かつ効率よく達成すること。
(教育工学が学習者に与えるメリットとデメリット)
(メリット)
・個々の学習者に合わせたカスタマイズ学習
教育工学は個々の学習者の理解度や進度に応じて教材や学習方法を調整することが可能で、それにより学習者一人一人が最適な学習を行うことができる。
・自己学習の促進
ICTを活用した学習環境では、自宅や移動中でも学習が可能であり、自己学習を促進。
・学習効果の可視化
学習者の進度や理解度をデータとして把握し、可視化することができる。学習者自身が自分の学習状況を把握しやすくなる。
(デメリット)
全ての学習者が等しくICTにアクセスできるわけではなく、経済的な理由や地域的な制約からICTを活用できない学習者もいる。デジタルデバイドとも呼ばれ、教育の機会均等に影響を及ぼす可能性がある。
・過度な画面時間
学習がデジタル化されることで、学習者が過度に画面時間を持つことになり、視力の低下や生活リズムの乱れなどの健康問題を引き起こす可能性がある。
・対人スキルの低下
実際の人間との対話や共同作業が少なくなることで、対人スキルが育たない可能性もありる。
ということです。
しかし、なぜ、” Educational Technology ” が ” 教育工学 ” なのでしょうね?
元のコトバが、” Educational Engineering ” なら、” 教育工学 ” でも納得もできるのですが、” Technology ” ですから、、、、
「教育技術」だとか「教育科学技術」の方が妥当な気もしますし、もしそうだったら、、、と考えてしまいます。
とはいえ、最初に ”Educational Technology ” が ” 教育工学 ”と命名してしまったのですから、今更変えようもないのですが、、、
「教育・学習」という世界において「工学」というのは、あまりにもセンスがないというか、、、
(学習科学:Learning Sciences)
・人間の学習プロセスについて科学的な研究を行う学問分野で、教育学、心理学、情報科学、人間工学、認知科学など多岐にわたる分野が関連している。
・教育や学習の現象を、科学的な方法で解明しようとするもので、学習環境の設計や学習効果の評価なども含まれる。
・(学習理論)学習がどのように行われるか、どのような条件下で最も効果的に学習が進むかなどを研究する。
・(学習環境の設計)教育現場や企業の研修など、学習が行われる環境をどのように設計すれば良いかを研究する。教室の物理的な環境だけでなく、教材や教育方法、教育技術の適用も含まれる。
・(学習評価)学習効果をどのように評価すれば良いか、学習者の理解度や能力をどのように測定すれば良いかを研究する。
・(学習者の特性)学習者の個々の特性、例えば前提知識や興味・関心、学習スタイルなどが学習にどのように影響するかを研究する。
・(学習支援システム)コンピュータやインターネットなどの情報技術を活用して、学習を支援するシステムを研究する。電子教科書やオンライン学習、学習管理システム(LMS)などが含まれる。
・教師の教育方法だけでなく、自己学習の方法や企業の研修方法など、広範な分野に応用される。
・認知心理学や脳科学の知見を基礎にしつつ、効率的な学習のあり方などを研究する学問である一方で、学習者の主体的な取り組みを重視する。
・基礎的な単純化した学習の研究から、実際に行われる複雑な学習の研究に至るまで、対象は幅広い。
・「学習者中心」「学習デザイン研究」「学習過程変化の観察」
・「人はどこまで賢くなれるのか」を目指した学習環境の構築と評価のサイクルを「知識とは社会的に構成されるもの」という最新の学習理論を基盤に、実践的に取り組む学問分野。
(学習科学が学習者に与えるメリットとデメリット)
(メリット)
・効率的な学習
学習科学の研究は、学習者の理解を深め、記憶を強化するための効果的な学習方法を提供。学習者は時間とエネルギーを節約しながら、より多くの知識とスキルを獲得できる。
・個別化された学習
学習科学は学習者の特性やニーズに応じた学習方法を提供。学習者は自分のペースで学習を進め、自分の強みを最大限に活用しながら、自分の弱点を補強することができる。
・自己調整学習の促進
学習科学の研究は、学習者が自分の学習を管理し、調整する能力を向上させることを助ける。学習者は自分の学習目標を設定し、それに向けて戦略的に進めることができる。
(デメリット)
学習科学はしばしば最新の教育技術を活用するが、学習者はテクノロジーに過度に依存する可能性がある。テクノロジーにアクセスできない学習者は、これらのリソースを利用することができない可能性がある。
・個別化の困難
学習者の特性やニーズに完全に合わせた学習環境を提供することは、研究者や教育者にとって大きな挑戦であり、完全な個別化は常に可能ではないかもしれない。
・自己調整学習の難しさ
自己調整学習は、自己反省や自己制御などの高度なスキルを必要とする。これらのスキルは時間と努力を必要とし、すべての学習者がこれらのスキルを持っているわけではない。
ということです。
「工学」よりは、「科学」の方がまだマシな気がしますが、とはいえ、やはりそれでも ”カタイ ” ですよね?
アカデミア全体のヒエラルキーとして、「教育・学習」という分野は、おそらく底辺に近いところに位置するのではないかと思います。
こういった分野の研究を行っている人たちが、少しでもその位置を上げようと考えたコトバなんでしょうが、結果としては失敗しているようにも思います。
「教育・学習」に関連する人々の中で、「哲学」などを少しでも学んでいる人なら、
「教育・学習」が、「哲学」から「科学」になった、、、
と受け入れられるかもしれません。
とはいえ、多くの「教育・学習」に関連する人々は「哲学」など興味のない人が多い(?)と思うので、
「教育工学」は勿論、「教育科学」「学習科学」といっても、容易に受け入れられるとは思えないのです。
コトバというのは、その物事の本質を的確に、確実に伝えられるモノであって初めて一般的になるのでないか? と思うのです。
そういう意味では、インストラクショナルデザインを「教育設計」とするのも弱いですね・・・
ではどのようなコトバなら受け入れられるか? ということについてはわかりませんが、もっと
「教育・学習」の世界で ” 身近なコトバ ”
であったとしたら、ある程度「教育工学」「学習科学」の内容が受け入れられ、現在のようなデタラメな「教育」「学習指導」は行われていないように思うのです。
「教育工学」「学習科学」の提示しているもののすべてが正しいとは思いませんが、学習者にとっては多くのメリットがあると信じています。
とはいえ世の中は、ICT, AI, GIGA といったコトバをどんどん「教育・学習」の世界に”そのまま取り入れよう ” としていたり、EdTech(EducationとTechnologyを合わせた造語)なんていう意味不明のコトバを生みだしたりと、、相変わらず、コトバの影響力を考慮していないように思うのです。